上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
 アルバイト募集の張り紙を見て、僕はその扉を叩いた。
 茶色い、古びた木製の扉は、ギイィと音を立て内側に開いた。
 ノブはさびた金色で、ところどころメッキが剥げて、薄汚れている。
 しかし握りやすい、丸い形状で、どことなく懐かしい。

 店内にはゆるやかなBGMが流れていた。
 予想よりも少し広い。
 道路に面した、大きなショーウインドウは僕の背丈よりも高く、幅は2mほどある。
 青い色をした壷(もしかしたら花瓶かもしれない)と、中に白黒の写真が入っているいくつかの写真立てが、道路から見えるように棚に配置されている。
 時々、覗き込んで立ち止まるおじいさんや子供連れの女性が通り過ぎる。
 店内はあまり照明が強くないので、自分の反射した顔を確認するために鏡変わりに使う若い女性もいる。 
 僕は毎日この通りを歩く。
 決して華やかではないが、重厚な看板と、味のある喫茶店のようなその風貌は以前から気になっていた。
 その店が、3日ほど前から求人を募集している旨の張り紙を出した。
 僕は頭の片隅にそれをインプットし、日々の雑務をこなす。
 友達と話をし、授業のノートをとる。本屋に立ち寄る。
 そして、その店のことを考える時間が、一日のなかで大きな割合を占めるようになった今、学校へ行くためではなく、この店に入るためにこの通りを駅から歩いてきたと、そういうわけだ。

 長椅子には老人が座っていた。この店の店主だろうか。
 くぅ、と音がして足元に目を向けると、小さな犬が座っている。黒と白のまだら模様のビーグル犬だ。
 その犬は、店の奥に座っている老人の足元からゆっくり歩いてきて、僕の足に頬ずりをした。
 なんとも人懐っこい犬だ。
 店内に、ほかに人間ないないことを確認しながら、老人のもとへ歩み寄る。
 彼はまったくしゃべらず、じっと僕を見据えている。
 その長椅子は非常に心地よさそうなカーブを描き、彼の身体を自然に支えている。
 まるで、椅子が作られたときから彼の身体と共にあったかのようだ。
 足には手作りのような、凝った模様の毛糸の毛布が掛けられていた。
 どこかに、いまは外出しているだけで、彼の奥さんや娘など女性の存在を感じる。
 黙っていてもしかたがないので、僕は用件を伝えるために話しかける決意をした。

 
 つづく
スポンサーサイト
Secret

TrackBackURL
→http://darinhapurojanshi.blog42.fc2.com/tb.php/467-b0befa89
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。